MEDLEYオフィシャルブログ

株式会社メドレーのオフィシャルブログです。

遠隔診療の法的整理〜連載第1回 遠隔診療にかかわる法的規制と規制緩和〜

皆さん初めまして。メドレーの法務統括責任者の田丸です。

今年の2月に当社がリリースした遠隔診療ソリューション「CLINICIS(クリニクス)」は、おかげさまで既に多くの医療機関に導入して頂き、徐々に患者さんへの遠隔診療の提供を始められています。

遠隔診療は既に世界では広まってきているシステムです。当社でも、遠隔診療が日本の医療における価値ある一歩になると考え、患者の利便性の向上、慢性疾患における受診継続率の向上、早期治療介入による重症化予防などの様々なニーズを考慮しつつも、最も大切な「医療の質」を疎かにしないためにはどうすべきか、という点を社内医師・社内弁護士を含む倫理委員会で日夜協議をしています。当社のCLINICSチームは、遠隔診療が対面診療との適切な組合せによって行われるべきこととを強調しながら、当社の社是である「納得できる医療」を実現するため、普及活動に尽力しています。

また、CLINICSの導入が進むにつれて世の中での遠隔診療に対する認知度が高まり、様々なメディアでもご紹介頂けるようになってきています。 この反響の高まりの中で、医療機関の皆さんからの遠隔診療の法的側面への問い合わせも増えてきており、今回当社のオフィシャルブログのCLINICS特別企画として、遠隔診療に関する法的な疑問への整理を連載形式でわかりやすくまとめていくことにしました。以下が連載テーマ(予定)ですが、皆さんからの声を頂きながら、より皆さんの興味・疑問に答える連載にしていきたいと思っています!

第1回:遠隔診療にかかわる法的規制と規制緩和
第2回:遠隔診療と「遠隔医療相談」 (追記はこちら
第3回:遠隔診療に関連する医薬品の処方について
第4回:遠隔診療における保険診療と自由診療
おまけ:遠隔診療に関連するお役立ちリンク集 

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CLINICSのアンバサダーにもなっていただいている、新六本木クリニック(東京都港区六本木)の来田誠医師と、遠隔診療の法的規制について意見交換

Q:遠隔診療は法的には問題はないのですか?

まず、第1回目の今回のテーマは、「遠隔診療」が現在の法規制上適法なものなのか、という点を扱いたいと思います。結論としては、現時点での法規制及び厚生労働省からの通達を踏まえると、「医師と患者が直接対面して行われる対面診療と適切に組み合わせた上で医療の質に十分配慮して行われる限りにおいては、医師法上の「診察」として適法である、といえます。

いわゆるDoctor to Patientタイプの、「医師が遠隔地にいる患者に対して通信技術などを利用して診察を行う遠隔診療(以下単に「遠隔診療」と呼びます。)」は、長年に渡って「離島・へき地で慢性疾患を患っている患者に提供できる限定的な診療」という理解であったものが、平成27年の厚生労働省の通達以降、「都市部在住の多忙なビジネスマンで花粉症を患っている患者に対してもオンライン診療を提供できる」というものに変わり、遠隔診療は一気に注目を浴びるようになりました。

厚生労働省による平成9年の遠隔診療通知〜

まず前提として、医師法第20条は医師が「診察」を行うものと定めており、遠隔診療がこの「診察」に該当しなければ、遠隔診療による医療行為は「無診察医療」ということになり、違法なものとなってしまいます。

医師法第20条:「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付(中略)してはならない」

これについて厚生労働省が出した平成9年の遠隔診療通知(平成9年12月24日健政発第1075号厚生省健康政策局長通知)は、初めてこの医師法第20条の「診察」の問題についての解釈指針を示したものです。この平成9年遠隔診療通知は、「基本的考え方」として「医師法第20条等における『診察』とは、問診、視診、触診、聴診その他の手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。」としつつも、「したがって、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない。」と明言しました。

つまり、「診療は、医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。」という前置き付きではありますが、ここで初めて遠隔診療は医師法上の違法行為とならない場合があるということが明らかにされたのです。

ただ、以下の通りの「留意事項」が付けられていたため、医療界の解釈としては「遠隔診療は対面診療を補完するものとして実施するぶんには違法ではないが、①平成9年遠隔診療通知の別表に定められたような特定の慢性疾患などに対するものや、②離島・へき地の患者に対するものに限定されるべきものであり、かつ、③初診は必ず対面診療によらなければならない。」というものとなってしまい、遠隔診療は全国的な広がりを見せることはありませんでした。

「平成9年遠隔診療通知に記載された「留意事項」(抜粋)」

(1) 初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によると。


(2) 直接の対面診療を行うことができる場合や他の医療機関と連携すること により直接の対面診療を行うことができる場合には、これによること。

(3) (1) 及び (2) にかかわらず、次に掲げる場合において、患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切 に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこと。

 ア 直接の対面診療を行うことが困難である場合 (例えば、離島、へき地 の患者の場合など往診又は来診に相当な長時間を要したり、危険を伴うなどの困難があり、遠隔診療によらなければ当面必要な診療を行うことが困難な者に対して行う場合)


  イ 直近まで相当期間にわたって診療を継続してきた慢性期疾患の患者など病状が安定している患者に対し、患者の病状急変時等の連絡・対応体 制を確保した上で実施することによって患者の療養環境の向上が認められる遠隔診療(例えば別表に掲げるもの)を実施する場合

まとめると、平成9年の遠隔診療通知は確かに遠隔診療自体は医師法上適法なものとして行い得ることを明らかにしたものの、それが許される状況として以下のような場合にしかないというものが医療界における原則的解釈でした。

  • 都市部在住で、相当期間慢性的に糖尿病を患ってきた患者に対して、初診は対面診療を行った上でテレビ電話等情報通信機器を通して、血糖値等の観察を行い、糖尿病の療養上必要な継続的助言・指導を行うこと

  • 離島・へき地在住で、例えば睡眠時無呼吸症候群を患っている患者に対して、初診は対面診療を行った上で、テレビ電話等情報通信機器を通して、診療を行うこと

 〜厚生労働省による平成27年の遠隔診療事務連絡〜

平成9年の遠隔診療通知により遠隔診療が行い得る場合があること自体は明らかになったものの、上記の①〜③のような制限付きでのみ許されるという解釈が長年に渡ってされていました。そこでこの①〜③の限定すべてについて、必ずしもそういうわけではないよ、という追加の解釈を示したのが厚生労働省による平成27年の遠隔診療事務連絡(平成27年8月厚生労働省医政局長事務連絡)でした。この平成27年事務連絡では、以下の点が明らかにされ、遠隔診療が実施できる「地理的範囲」、「対象となる疾病」、及び「場合(初診対面診療が必要かどうか)」という意味で遠隔診療が可能な範囲はかなり広いものである、ということを世間に周知させることとなり、多くの医療従事者の注目を集めることになりました。

① 平成9年遠隔診療通知の留意事項での「離島・へき地の患者」というのはあくまでも例示であり、都市部の患者に対する遠隔診療が妨げられるものではないこと

② 平成9年遠隔診療通知の「別表」に掲げられている遠隔診療の対象及び内容は、あくまでも例示であり、遠隔診療はそれ以外の疾病・診療科目についても行うことができるものであること

③ 患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、直接の対面診療を行った上で遠隔診療を行わなければならないものではないこと、即ち初診が必ず対面でなければならないわけではないこと

〜平成27年遠隔診療事務連絡後の広がり〜

平成27年遠隔診療事務連絡により、従来解釈上存在するとされてきていた上記①〜③の制限が例示列挙に過ぎないものであったことが確認され、以下のような状況でも遠隔診療による診療が行い得ることが明らかになりました。

  • 都市部在住で、睡眠時無呼吸症候群を患っているものの業務が多忙でなかなか継続受診を実現できていない患者に対して、3回の診察のうち1回のみ対面診療とするのを原則とするなど、直接の対面診療と適切に組み合わせた上でオンラインでのビデオ通話による診療を行うこと
  • 離島・へき地ではないものの地方都市の郊外在住で花粉症を患っているものの、移動手段を十分に持ち合わせておらず、なかなか病院に行けない患者に対して、直接の対面診療と適切に組み合わせた上でオンラインでのビデオ通話による診療を行うこと

このように遠隔診療の可能性が大きく開けたことで、様々な医療機関、企業が遠隔診療サービスに興味を持ち、色々な形で遠隔診療を実施する事例が現れてきました。

しかしながら、厚生労働省の通知・事務連絡は、遠隔診療はあくまでも「直接の対面診療と適切に組み合わせて行われる」ことが必要であるという点は維持しており、対面診療を一切行わず、遠隔診療のみで診療を完結させることを想定したタイプのサービスについては、その法的適合性に一定の疑義が存在していました。

その中で厚生労働省は、先日平成28年3月18日付事務連絡(医政医発0318第6号)で、東京都からの疑義照会に回答する形で、このような事業についての考え方を示しました。当該事務連絡の中で厚生労働省は、「対面診療を行わず遠隔診療だけで診療を完結させることを想定した事業」が存在することに触れつつ、「(当該事業が)電子メール、ソーシャルネットワーキングサービス等の文字及び写真のみによって得られる情報により診察を行うものである場合は、(中略)『直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報』が得られない」こと、また、「(当該事業が)対面診療を行わず遠隔診療だけで診療を完結させるものである場合は(中略)直接の対面診療を補完するものとして行われて」いないことを根拠に、このような事業は無診察治療を禁止した医師法第20条に違反するものだという解釈を明らかにしました。

かかる平成28年の事務連絡が公開された後、厚生労働省の解釈が「初診は必ず対面で行われなければならない」という方向に揺り戻した(=実質的に平成27年の事務連絡の内容を否定した)との誤解もありましたが、日経メディカルの記事などにおいても、「対面での診療を一切行わない想定でネット診察だけで行われる診療行為は、(中略)無診察治療に相当する違法行為であることが改めて示された格好」だという理解をすべきとの訂正報道が行われています。この平成28年事務連絡の後、ますます「直接の対面診療と適切に組み合わされた形」での遠隔診療の普及・推進が大きな課題事項となってきています。 当社でも、医療機関の皆さんに遠隔診療ソリューションCLINICSを導入支援する際には、直接の対面診療と適切に組み合わせた形で行って頂くことをお願いしております。 

遠隔診療ソリューションCLINICSの導入に興味がある、まずは説明を聞いてみたい、という医療従事者の方は、是非お気軽にお問い合わせください。 

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株式会社メドレー 法務統括責任者 田丸 雄太

2007年東京大学法学部卒、2008年東京第二弁護士会登録(61期)。2008年より大手外資系法律事務所にて弁護士としてクロスボーダーM&Aや一般企業法務のアドバイザリー業務に携わった後、大手商社のM&A推進部門への出向経験を経て、2016年にメドレーに参画。大手商社出向時代には、メディカル・ヘルスケア部門の海外向け投資案件などにも多く関与。