MEDLEYオフィシャルブログ

株式会社メドレーのオフィシャルブログです。

遠隔診療の法的整理 〜連載第2回 追記 遠隔医療相談で子どもを「診察」?〜

皆さんこんにちは。

今回の連載は、第3回として「遠隔診療における医薬品の処方」を扱う予定だったのですが、前回のトピックである「遠隔診療と遠隔医療相談」のテーマの法的な整理について前回書ききれなかった部分を改めて考え方を整理したので、追記という形で新たに記事をまとめさせてもらうことにしました(第1回のテーマは「法的規制とその緩和」でしたのでこちらも併せてお読みください。)。

なお、この連載の内容は、今回に限らずメドレーの会社としての見解ではなく、メドレーで遠隔診療という領域に携わる一人の弁護士として、遠隔診療を適切に広げていくための法的な考え方を皆さんと共有したいという思いで書いている私個人の見解に基づくものですので、その点はご理解を頂けると幸いです。

・はじめに

さて、遠隔医療相談については、前回のブログの中で「ここで重要なのは、遠隔医療相談はあくまでも相談であり、患者の健康状態について医師が一般的・抽象的な回答・アドバイスをするもので、個別具体的な回答・指示を行うものではないとされている点です(=「診療」ではない)。「診療」ではなく一般的な「相談」であることから、「遠隔医療相談」は医師法の適用対象とは考えられていないのですが、実際の場面において「どこまでが相談で、どこからが診察・診断行為なのか」についての線引きはどうしても曖昧になりがちで、法適用の有無や法的責任の所在についての整理が難しくなってしまう、という懸念が挙げられています。」と書いていたところです。

・医療相談の実際の事例

その中で、東洋経済オンラインで、こちらの記事が掲載されました。この記事では、ある遠隔医療相談サービスにおいて、生後6ヶ月の子供さんの母親からの子供の発熱相談に対して、対応医師が

「視線が合うか、泣き声が変ではないかなどをチェックし、呼吸の回数が多くなっていないか、いびきのような呼吸がないかなどの呼吸状態、唇が青くないか、四肢や体感がまだら状に紫になっていないかなどの血行状態も確認したところ、明らかな症状はありませんでした。水分も取れているようだったので、翌日の朝まで様子を見ても大丈夫であろうとお話し、もし今晩症状がさらに悪化するようであれば医療機関を受診するように促し、相談を終了しました」

という回答を行った事例が紹介されています。この記事を見て私が最初に持った感想は、「これは実質的には医師法上の診察が行なわれていると言うべきなのではないか」というものです。 

f:id:medley_inc:20160902171202j:plain

(C) ucchie79 - Fotolia.com

私自身も乳幼児の父親として、子供が発熱した時の親の不安感は痛いほどよく分かるので、このような相談ができるサービスには大きな価値があると思いますし、正直非常にありがたい、と思います。緊急で医療機関を受診しなくとも大丈夫、というアドバイスをもらう意味も大きいですし、遠慮がちな両親が夜間診療のドアを叩くことを遠慮している時に、緊急で受診しなければいけない旨をアドバイスしてもらうことで、重篤な結果を避けることができるという意味も大きいと思います。

しかしながら、そのようなアドバイスをありがたいと思う理由は、そのアドバイスが自分の子供の、個別具体的な状況をヒアリングしてもらった上で、医師が「大丈夫です」や、「一刻も早く最寄りの医療機関を受診してください」と伝えてくれているから、つまり医師がきちんと診察をしてくれているからではないでしょうか。*1

・「医師による医療相談」のあるべき姿

上で紹介したような医師と相談するサービスが、「あくまでも一般的・抽象的な回答・アドバイスをするもの」という医療相談という枠組みで提供されることにより、万一そこに過誤があった場合に医師側が「あれは医師としての診療ではなく、一人の人間としてのアドバイス・相談だったので責任は取れない。」という姿勢を取ることが正当化されてしまうのであれば、それは単なる医師法上の責任逃れにしか映らないのではないか、と思います。

対面での診療が行われる医療の現場では診察を真面目に、集中して行っていても一定の見落としはあるもので、「医師とはいえ神様ではないし、日々勉強して、かつまじめに診療して、それでもなお発生してしまう見逃しは一定程度致し方なし」というような考え方が一定程度には世の中に浸透しており、医療過誤の訴訟などにおいてもそのような考え方がある程度基礎になっています。しかしながら、オンラインでの医療という領域においてはまだまだそのようなコンセンサスが形成されているわけではないと思います。

だとすれば、このような子供の発熱に関するオンラインでのサービスを提供するに際しては、「医療相談」という医療行為外の枠組みを用いることで患者側の期待値をコントロールする(=下げる)のではなく、例えばオンラインでの小児科自由診療として整理した上でこれを実施し、医師側が「何かあった時に自分が責任を取らされても構わない。それでもなおオンラインで行う医療相談には価値があるから、私は自己の責任においてオンラインで小児科相談(自由診療)を実施します。」というような姿勢でこのサービスに取り組むことが望ましいのではないか、というのが私の所感です。

その中で、「小児の発熱など急性期の診察においては対面による診察をすることが原則的ではあるが、オンラインによるトリアージ(=緊急性の振り分け)に医療界として意味があると考え、オンライン診察という限定された手法で取り急ぎの診察を行うものであり、見落としの可能性が対面診察の場合に比して大きい可能性がある。」というような点を真摯に伝えた上で、法的なリスク管理を行っていくことが必要なのではないでしょうか。

・最後に

このようなオンラインでの遠隔医療相談の取り組みに参画されている医師の皆様には敬意の念を表したいと思いますし、私個人としてはこのようなサービスが広まってくことで、核家族化して親世代からの子育てアドバイスをなかなか受けづらい若い両親の不安感への一つのソリューションになり得ると思っています。他方で、前回の記事でも書きましたが、オンラインでの医療という領域が国民の生活の中で適切に広がっていくためには、やはり法的な整理をきちんと踏まえた上でサービスが提供されていくことが重要だと思ったことから、今回のような記事を書かせて頂きました。

最後にまとめると、遠隔での医療相談というサービス領域は、あくまでも緊急性の低い疾病等に対して治療法のオプションを一般的に説明しつつ、適切な医療機関の受診勧奨を行うような領域において用いられていくのが望ましく、緊急性の高い小児の発熱相談のような領域においては、個別具体的な問診などを行ってアドバイスを行う場合には、やはり「診察」という医師法上の枠内の行為として整理した上でサービス提供が行われていくべきだと考えています。

医療界、法曹界に限らず、一般の皆様からのご意見も頂ければと思っておりますので、今後とも本連載をよろしくお願いいたします。

補足(以下に更新あり):

上記の東洋経済オンラインの記事に紹介されていた遠隔医療相談サービスのサービスサイトで医療相談の様子を描いたデモ動画を拝見しましたが、デモ動画中で患者に対する医薬品の処方が行われていたり、医師側画面での用語も「診療録」と記載されていたりしており、「医療相談」と銘打ってはいるものの、実際には診療を実施しているという建て付けで整理されていらっしゃるのかな、と見受けました。この辺りについてはサービスのタイトルが標榜するものと、実際のサービス内容との関係について、私の方でも理解し切れていない部分がある可能性があることについて、ご容赦いただければ幸いです。

 2016.09.07更新

上記補足の中で「遠隔医療相談サービスのサービスサイトで医療相談の様子を描いたデモ動画を拝見しましたが、デモ動画中で患者に対する医薬品の処方が行われていたり、医師側画面での用語も「診療録」と記載されていたりしており、「医療相談」と銘打ってはいるものの、実際には診療を実施しているという建て付けで整理されていらっしゃるのかな、と見受けました。」と記載しておりましたが、言及したデモ動画は本日付けで削除されたことが確認できました。当該サービスの運営会社さんの方でも本意とは異なるデモ動画の内容となっていた可能性もあるところかと思います。何れにしても、上記の補足の記載内容は現時点では妥当しない内容となっているので、本日こちらの更新を追記させて頂きました。

 

遠隔診療ソリューション「CLINICS」のご利用にご興味がある、まずは話を聞いてみたい、とお思いの医療関係者の方は、是非お気軽にお問い合わせください。

f:id:medley_inc:20160524101545p:plain

f:id:medley_inc:20160527102834j:plain

株式会社メドレー 法務統括責任者 田丸 雄太

2007年東京大学法学部卒、2008年東京第二弁護士会登録(61期)。2008年より大手外資系法律事務所にて弁護士としてクロスボーダーM&Aや一般企業法務のアドバイザリー業務に携わった後、大手商社のM&A推進部門への出向経験を経て、2016年にメドレーに参画。大手商社出向時代には、メディカル・ヘルスケア部門の海外向け投資案件などにも多く関与。

*1:厚生労働省の見解による「診察」とは「現代医学からみて、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」とされています